梁の強度計算

1). はじめに

長さがあり曲げられるような部品としてはり(梁)があります。設計される部品の8割は、はりとして部品の強度検討を行います。
このはり部品の検討方法を4つの項目に分けて説明し演習を行います。

2). 梁部品の特徴

以下に踏み台の事例を示します。
これまでの例題や問題演習で踏み台の天板はたわまない剛体とし、脚の圧縮荷重のみを検討してきました。

しかし実際の天板は人が乗れば変形します。
また天板が変形すると各脚には圧縮荷重の他に踏み台の内側に曲げようとする力『曲げモーメント』が作用します。

このような問題を設計では『はり(梁)問題』と呼ばれています。

3). はり問題の検討手順

以下に示される手順に沿って梁問題は解いていきます。
はり部品の強度と変形状況について、この手順に沿ってそれぞれの課題を検討します。

  • 部品の曲げに伴う強度 (曲げ応力の計算)

  • たわみによる部品の機能不全(たわみ計算)


また、はり問題は部品の断面形状にも影響されます。
そのため難しい問題ではありませんが、結論に至るまでに準備する項目が多く手間がかかります。

はり問題を解く手順を以下の4つに分けて説明していきます。

  • 反力・固定モーメントの計算

  • せん断力・曲げモーメントの計算とせん断力線図、曲げモーメント線図の作図

  • 曲げ応力の計算とはり問題での強度検討方法

  • たわみ角、たわみの計算


最近、はり問題はシミュレーションにより検討されることが多いです。
その一方で得られた計算結果の意味が判らず、部品設計に反映できていないことあります。

コンピュータがない時代に同じような検討を踏まえて東京タワーが設計されました。
はり問題の基本的なことを理解することで、設計業務の対象と幅を広げられると思います。

4). はり問題における記号などの基本的なルール

4). -1 部品の拘束(固定)方法

はり問題で用いられる固定方法は以下の三種類に分類されます。

この固定方法を区別する記号と意味を示します。
図の左側に示されるはりは、特別に片持ちはりと呼ばれています。はりに作用するすべての力を固定端が支持します。
モデル図の下に代表的な製品写真が示されています。

図の中央に示されている支持方法は自由支持と呼ばれます。
モデル図の下に示されるような支持方法になります。

図の右側に示される支持は並進支持と呼ばれており、はりの軸方向(モデル図ではX方向)の移動を拘束しません。

各拘束方法の特徴や三次元座標軸などを使ってモデル図に使用されている記号を整理すると以下のようになります。

4). -2 部品に作用する負荷方法

はりに作用する荷重は作用の仕方により、以下のように区分されます。
図に示されるように、荷重はX, Y, Z軸に並行な引張・圧縮荷重と各軸廻りの回転力があります。
特に軸廻りの回転力は『モーメント』、あるいは『回転モーメント』と呼ばれます。

【トルクとモーメントの違い】

トルクとモーメントの単位は、どちらも(N・m)で力学的には同じ回転力です。
トルクは『ねじりモーメント』とも呼ばれ、部品の軸方向に対しねじる回転力を言います。
一方、部品の軸方向に対し曲げるような回転力を『曲げモーメント』と呼びます。

5). 梁の組合せによる構造事例

機械設計で部品強度を検討する場合、多くは梁の問題として検討されます。
それらの梁を組合せて構成する構造事例を以下に示されるようなものになります。

以下の事例について概要を説明します。

【トラス構造】
梁と梁をピンで締結した構造で支持の仕方は『自由支持』または『単純支持』となります。
部材の断面形状は変化しないため、軸方向の引張・圧縮荷重とねじりモーメント(トルク)のみ検討します。

【フレーム構造】
梁と梁を複数のボルトで締結や、ガセット※1やブラケット※1などで固定される構造で、『完全拘束』や『固定支持』で支持されます。
トラス構造と同様、部材の断面形状は変化しませんが、軸方向の引張・圧縮荷重やねじりモーメントに加え、軸方向と直角に交わる方向に作用するせん断力や曲げモーメントと呼ばれる回転力が作用します。

【モノコック・フレーム構造】
部材の断面形状が軸方向に変化するため検討方法や内容が複雑になります。

※1 : 薄い金属の板を曲げて製作される部品。部品どうしをボルトや溶接で締結するときに用いられる。

6). トラス構造の事例 (世界遺産 富岡製糸場 繰糸場)

現在はフレーム構造が主流を占めており、トラス構造を見る機会がありません。
そのような状況で、歴史的な遺産の中にトラス構造がありましたので紹介します。

富岡製糸場の場合、屋根の重さは軸力として柱に作用しますが、建物に生じる曲げ変形は壁面がせん断変形や曲げ変形することで作用しており、力をうまく振り分けた構造になっています。

場所 群馬県富岡市富岡1丁目1
設立 1872年、日本国政府(明治政府)によって設立