強度基準と許容応力

設計時に決める製品の強度基準について説明します。
また国内の法律で利用できるものを紹介します。

1) 破損とその要因

設計で考える破損は以下のように説明されます。

破損とは 破損とは機械や構造物の構成要素が何らかの損傷によって本来の目的にかなう稼働が不可能になったときの状態である。

※『何らかの損傷』

塑性変形
塑性変形により寸法精度が低下し、回転要素などの動作が不能となる。

破断
要素が破断したため、荷重の伝達あるいは保持が不能となる。

摩耗
軸受などの擂動部が摩耗し、正常な回転あるいは摺動が不能となる。

腐食
腐食のため材料表面が浸食され寸法減少を生じ、正常な稼働が不能となる。

2) 強度基準の考え方

引張強さ下降伏点を強度基準として使います。


【引張強さ】
塑性変形しても破断しなければ製品として利用できる場合に利用される。

【降伏点(下降伏点)】
製品として使用しているあいだ塑性変形しない。
塑性変形すると破損したものと扱われる。

3) 基準強さと許容応力について

『降伏点』『引張強さ』のような強度基準を『基準強さ』と呼びます。
装置や製品を設計する場合、以下の条件を『基準強さ』に加味します。


  • 経年(使用時間)による摩耗や腐食に伴う材料強度の低下

  • 想定外の使用法に伴い、瞬間的に過大な荷重が外力として作用する場合

  • 繰返し荷重(振動)による部品への疲労蓄積により材料強度が低下する場合

  • 高温状態での使用に伴い部品の材料組成が変化し材料強度が低下する場合


この条件を加味するため『安全率』と呼ばれる数値で割って『基準強さ』の値を小さくします。
また安全率で割った基準強さを『許容応力』と呼びます。

『基準強さ』『安全率』そして『許容応力』の関係は下図のようになります。

【安全率に関する注意】

安全率は経験的に決められた値で、科学的な根拠に基づいて定まった値ではありません。
そのため以下の項目を考慮し下表に示される値を安全率として選ぶこともあります。
常用される安全率は製品や使用環境により異なるため、注意して選択してください。


  1. 荷重算定や応力計算の正確さ、応力の種類、応力集中の影響など

  2. 耐久性、寿命および安全性に対する要求度

  3. 加工精度、仕上げや組立の良否と使用環境変化の可能性

【安全率のメリットとデメリット】

安全率は設計する部品の安全性を担保する一方で、材料費や肥大化する傾向にある。
以下に示されるようなトレードオフの関係を理解が必要である。

(メリット)
強度面で安全性の高い製品が設計できる。

(デメリット)

  1. 強度面を重視することから、板厚、断面形状などの材料サイズが1サイズ・アップする。
    そのため材料費が上昇する。

  2. 形状が肥大化する傾向にあるため、商品の使い勝手が悪くなり商品性などの魅力が低下する。

【例題】

ある非鉄金属の引張強さ𝜎_Bは426 MPa、降伏応力𝜎_𝑌 は237 MPaであった。
以下の問いに答えなさい。


  1. 引張強さ𝜎_Bを基準強さとします。安全率Sを3とした場合、許容応力を計算せよ。

  2. 降伏応力𝜎_𝑌を基準強さとします。安全率Sを4とした場合、許容応力を計算せよ。

例題 1.

許容応力は143. (MPa)

例題2.

許容応力は59.3 (MPa)