三次元CADデータの活用事例

Post date: Jun 11, 2018 5:34:13 AM

キーワード : 三次元CAD, CAE, リバースエンジニアリング, コンカレント・エンジニアリング, WEB 3D

企業が抱える課題のうち生産技術の革新と人材育成に対して次の二点にテーマを絞り、3次元CADデータの活用による課題解決に取り組みました。

一点目は開発製品における品質仕様の早期確定であり、二点目は作業指示書などのWEB3D化です。

現状においても3次元CADデータの活用は模索が続いており、その一例となればと思い、過去に取り組んだ内容をご紹介いたします。

1. はじめに

Windows95™の登場により、1990年代後半から情報機器のダウンサイジングと高性能化が進みました。

同時にインターネットの普及も始まり、それに伴って消費者の嗜好も多様化が進みました。

また、通信速度の高速化に合わせて消費者の嗜好の変化も速くなっていきました。

一方、これらの変化に対応するため、自動車業界では開発期間を短くする施策が実践されてきました。

その一つとして三次元CADやCAEによるコンカレント・エンジニアリングや試作レス開発が模索されました。

しかし、生産技術部門や製造部門まで、三次元CADデータの利用を目的とした環境整備が追いつかず、当初の効果は乏しかったように感じます。

2000年以降、ソフトウエアの利便性が急速に向上してきました。

具体的には、三次元CADデータの閲覧ツールの充実化、データ変換精度の向上、あるいはCAMやCAEなどの各種アプリケーションが統合化された三次元CADの登場などが挙げられます。このような背景のなか、開発製品における品質仕様の早期確定や作業指示書のWEB 3D化に対し、三次元CADデータを活用し生産技術の革新や人材育成などの課題解決に取り組みました。

2. 技術的な課題

1) 企業の課題

1996年から2008年まで静岡県浜松市にある自動車部品メーカーに勤務しておりました。この会社は、コスト削減という観点から2003年頃より東南アジアの各国に生産拠点を設けていました。一方、国内においても2005年頃から非正規従業員(派遣社員、パート従業員)を随時採用し始めました。その結果、2008年において非正規従業員の比率は全従業員の51.9%になりました。また、製造部に所属する従業員のうち60.7%が非正規従業員であり、そのうち59.3%が外国籍でした。(右図.『従業員の構成比 (2008年3月末時点)』 参照) そのため、日本語による意思疎通に問題がありました。

製造部で採用された非正規従業員のうち、54.3%は勤続2年以下の従業員であり、この状況は2006年から続いていました。 (右図. 『製造部非正規従業員の勤続年数』 参照)。そのため、製品の品質維持や現場の技術力向上は難しい状況でした。そこで、言語に左右されない、しかも短時間で理解できる作業手順書の必要性が高くなってきました。

2) 業務上の課題

1996年から2001年まで、開発部品のFEM解析を主な業務としながら、コンカレント・エンジニアリングなどの手法確立に取り組んでいました。また、2002年からは研究部門に異動し、社内外で発生した不良品や市場で発生したクレーム品に対し原因解析を行っていました。(下図.『製品開発・生産準備業務の概要』 参照)

その中で多くの時間を費やしたのは、次の2点です。

一方、製品の軽量化、コンパクト化、低コスト化の要求に対し、製品を構成する部品の多機能化が進みました。

そのため部品の小型化、高精度化や形状が複雑化し寸法測定が難しく、製品の精度把握が困難な状況になってきました。

結果として、製品開発や生産準備における製品精度が反映不足となり、原因解析で量産品の品質問題として形状測定などを行いながら解決を図っていました。

そこで、早期に品質仕様を確定し、製品図面に反映させ、開発期間の短期化や多品種少量化へ対応することが強く望まれるようになってきました。

3. 課題解決への取組み

1) マニュアルのWEB3D化1)

言語に左右されず、短時間に理解されるような作業手順書作成にあたりWEB3D技術を利用することにしました。

このWEB3Dは、インターネット環境で三次元の形状データに関する操作や、三次元アニメーションを表示させる技術のことを示します。

また、WEB3Dで用いる三次元の形状データはXVL (eXtensible Virtual world description Language) 技術を利用し、三次元CADのデータを元に作成いたしました。

・ 三次元的に変化する曲面などの形状測定や形状確認

・ 原因解析を通じて得られた知見を社内教育用の資料として視覚的に理解し、多角的に活用できるようにすること

このXVLは、三次元形状のデータを軽量化する技術であり、元のCADデータを1/100程度に軽量化することができます。そのため、インターネット環境でのデータ流通が容易になります。

一方、WEB3Dは音声などのファイルも操作が可能です。

そのため、作業内容を説明した音声ファイルを英語やポルトガル語などで作成し、使用言語の選択肢を設けることも可能となります。

以上から、右図.(『WEB3Dによる作業手順書の事例』)に事例として示される言語に左右されにくい作業手順書を作成することができました。

2) 製品の精度把握

三次元的に曲率が変化する幾何形状の測定が求められるので、主に三次元スキャナーを使用しました。また製品に対する要求精度に応じて測定ツールを選択し形状を測定しました。このようにして測定した幾何形状については、次のような二つの方法で評価しました。

  • 三次元CADデータとの差異を比較する絶対的な方法

  • ロット間や異なる生産拠点間などの差異を比較する相対的な方法

さらに高い精度が要求される場合には接触式の測定器を使い、EXCELのマクロなどで測定データの収集と解析を行うプログラムを製作しながら評価を行いました。

3) 三次元CADデータの活用

三次元CADデータを用いて前節の課題解決に取り組みました。具体的に製品開発および生産準備における三次元CADデータの活用について目指す方向として改めて整理しました。(図6.『目指す方向とイメージ』 参照)

この目指す方向では前節の取組みに対し、次のように課題を拡げました。

  • 設計者の意思や意図を正確に伝える手段としてマニュアルのWEB3D化を検討

  • 製品の精度把握としてのリバースエンジニアリング

  • 三次元CADデータのモデリングやFEMなどの先進的な活用

  • デジタル・モックアップによる製品・設備開発

三次元CADデータの利用範囲を拡げることで業務効率の向上がはかれ、コンカレント化が大きく進むと考えられました。一方、以上の課題解決については設計部門の改善を進めるのではなく、現実に発生した不具合などの品質問題を主な事例とし、不具合発生を防止する方策として上流の設計部門改革に取組みました。

4.取組み事例

1) WEB3D化の取組み

設計者の意思や設計意図を伝える手段として、WEB3Dを活用しました。その結果、試作の製作前に問題点が抽出され解決されることが多くありました。(右図. 『WEB3Dの取組み事例』 )

2) リバースエンジニアリングへの取組み

製品の精度把握以外に、他社製品の調査目的でリバースエンジニアリングに取り組みました。

苦労した点は、効率よく形状測定を行うための試料固定方法と測定後の形状作成(モデリング)です。

試料の固定には、フレックスサポートを使いました。また、得られた点群データから形状を作成するには、点群を面で捉えるデッサン力も必要になります。(右図. 『リバースエンジニアリングの取組み事例』)

3) 三次元CADへの取組み

三次元CADデータに寸法線などを付加し、設計図面とする動きがあります。従来の製図に対し3D図面と呼ばれていますが、新しい利用方法として取組みました。

また、PDQ(Product Data Quality)についても、モデルを試作し体感できるようにしました。(右図. 『三次元CADへの取組み事例』)

4) デジタル・モックアップへの取組み

シミュレーション技術により、製品組立や動作検証など三次元CADデータで行い、問題点の解消や課題抽出後に試作の製作を行いました。

(右図. 『デジタル・モックアップの取組み事例』)

5.おわりに

弊社での開発業務は、以上の成果を背景に行われています。

製品の開発設計は三次元CADでモデリングとFEMシミュレーションを基本に行います。

その成果として、国内では製作実績のない船舶への搭載設備開発を設計ミスなく納品することが出来ました。

結果的に試作品がそのまま製品として納品されました。

また、この結果が評価され、海外企業からオファーがあり、1年間、立体造形装置の開発支援を行いました。

この分野は三次元CADやFEMシミュレーションの技術をそれぞれ保有していても、これらの技術を組合せて課題を解決するエンジニアリング的な知見が必要になります。

その部分は現場の業務経験だけではなく、三次元CADやFEMシミュレーションについても理論的な知見が必要になります。

まだまだ、関心が高い分野ですのて、ご意見・ご質問やご相談などがございましたら、お問合せフォームよりご連絡下さい。

お待ちしております。