Post date: Feb 14, 2018 3:46:57 AM
1. はじめに
現在、韓国企業で技術顧問として勤務しております。
2017年の6月から12月までの顧問契約を延長し2018年の6月30日まで勤務することになりました。6ヵ月の勤務期間を振返り、感じたことをまとめてみました。
2. 情報の共有化
社内で保管されるような技術書類がありません。また、製品図面(部品図や組立図など)などもありませんし、保管されているキャビネットもありません。驚くことに、あまり技術文書や試験データなどの共有化への取り組みは弱いです。
個人のキャビネットはあっても、オフィスに社内で責任者を決めて管理されるべき情報を管理するためのキャビネットはありません。
結果論になりますが、この時点で情報漏洩は発生しようがありません。
製品開発のノウハウや技術は属人的で、人に付いて回るようなものであり、社内で共有化されておりません。したがって、プロジェクトのメンバー間で、関係する項目や内容をすり合わせているだけで、お互いに詳細については話し合いません。
プログラミングで言われるオブジェクト指向と同じで境界部分でやり取りする情報が決まれば、各担当分野の成果を組み合せるだけで製品が完成する。
最後に全体を整えるのはプロジェクトリーダーの役割のようです。
3. 人材の育成や登用について
プロジェクトの中で人材を育てるようなことはしません。
才能(実力)やセンスがあるのなら、与えられたテーマの中で自分のなすべきことを理解し、自ら成長できるはず。みなさん、そのような考え方で仕事をされているため、結果的に求められる才能(実力)やセンスがある人材しか残れないようなシステムになっています。
同時に、求められ採用される人材は自分の能力や適性を理解し、与えられたテーマを自分で解決できる人材のようです。
したがって経営者の仕事は、実力のある人材を確保するための資金集めと、彼らの能力が100%発揮できる環境の整備。そして魅力ある製品を開発させることが仕事のひとつになります。
メディアで取り上げられる米国の大手企業などの開発現場に近いのかもしれません。
憧れる現場の一つですが、与えられたテーマに対し、『判らない。』、『出来ません。』などと弱気な発言が出てくると、有無を言わさず就労契約を解除されます。
そのテーマを解決するために採用されたわけですから、指導して下さる方もいません。
厳しい言い方になりますが、『誰が解決するの?』と言われ雇用関係は終わりになります。
4. 業務報告や労務管理
テーマに関する業務の進捗報告は、最低でも2日1回は報告書を作成し、メールなどでリーダーに報告します。リーダーへの報告が少ないと全体の進捗判断ができなくなるため指導が入ります。報告が少ないと詰問され、進捗内容の詳細についてヒアリングされます。こちらでは、プロフェッショナルとしてのプライドを傷つける行為であり、このようなことが続くとお互いに信頼関係を失って就労契約を解除することになります。
ここで言うリーダーは、日本の会社組織に存在する管理職よりプロジェクトリーダーに近いです。また旧暦の正月(2018年は2月15日から18日まで)が、日本の年度の切換え時期に相当するらしく、各人が1年の成果報告書を作成しリーダーに提出していました。
この成果報告書などに基づき、来年度の就労契約継続や契約金について判断されます。次年度の報酬金額が査定されるため、いろいろと苦労なさるようです。
日本の雇用契約とは異なり成果報酬制になるので、会社指示による残業という概念がありません。そのため、タイムカードがありません。9時までに出社し、18時頃に退社します。
ドアのロックを指紋認証で開錠するシステムになっていますので、指紋認証の認証記録が出退勤の証拠になるようにしているようです。
一緒に出社や退社したときなどは、ドアが開錠しているにもかかわらず、個別に記録しています。私自身も、出退勤の記録として指紋認証記録を残すようにしています。
5. 社内連絡などのコミュニケーション
社内連絡などのコミュニケーションはカカオトークを使っています。
会社の総務から発信される健康診断などの業務連絡もカカオトーク。
社内電話などもカカオトークの通話機能で行っています。
逆にカカオトークのグループに入っていないと業務連絡や会議などの連絡が入らなくなり孤立します。
それでも、週に1回はグループごとにミーティングを行い、カカオトークでは伝達できない人事関係や組織改変など伝達に慎重さが求められ情報が伝えられます。
社内に電話機はありますが、呼び鈴が鳴ることはほとんどありません。
6. 雑感
社会人になり、転職を重ねながら日本国内の企業に20年以上、勤務してきました。
個人の成長プロセスは個人が考えて実践するもの。
そして、その成長すら個人の才能とセンスと言われてしまうと、かなりの技術職が淘汰されてしまうのかもしれません。
案外、日本は優しく、海外は厳しい環境だと思います。
日本は、結果より個人の成長を見ながらプロセスを重視して評価されますから。
ただ、日本は30歳あたりからマネージメント教育が始まり、管理職としてシフトを始めます。
技術者が開発現場の一線で働き続けるプロフェッショナルな道が少ないです。
私自身もマネージメントへのシフトを要求されましたが、プロフェッショナルへのこだわりを捨てられず、当時の上司と意見衝突をさせました。
人材育成制度の影響もあり、開発の前線で実践的に課題を解決できるプロフェッショナルな技術者は意外に少なく、開発マネージメントに特化した技術コンサルタントは多いです。
ただ、一長一短があるため、どちらが良い悪いという話ではありません。
7. おわりに
今回、技術顧問として韓国企業で勤務した体験に基づき、自分が知り得た範囲のことを雑感としてまとめました。
最後に自分のデスクの写真を紹介します。
勤務先とは、開発に必要な情報を報告書として提供することにはなっていますが、そのために必要な環境整備について契約をしておりません。
そのため机は用意していただきましたが、報告書作成用のパソコンや必要なソフトについては日本よりノートPC型のワークステーションを持ち込んでいます。
知識面を補う技術資料としては、機械工学便覧の材料力学のみを持参しています。
それ以外で必要な製品情報については、インターネットで検索し収集しながらテーマ解決に向けて取組んでいます。
将来的に海外でも活躍することを希望する技術者の皆さんにとって、本記事が少しでも参考になればと思います。
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