荷重が作用する方向に生じるひずみを縦ひずみと呼びます。
引張ひずみや圧縮ひずみは縦ひずみに含まれます。
(縦ひずみ) ⇒ (引張ひずみ, 圧縮ひずみ)
荷重が作用する方向に対し直角方向に生じるひずみを横ひずみと呼びます。
次の仮定が成立した場合、縦ひずみと横ひずみには以下のような関係が生まれます。
(仮定) 部品の体積は作用する荷重の大きさに関係なく一定
(関係) (縦ひずみによる体積増加分) = (横ひずみによる体積減少分)
縦ひずみ(Δl)と横ひずみ(Δd, Δb)から、以下の関係を導くことができます。なお、図に記載されている記号を使って説明します。
変形前の部品体積 V = l×d×b
変形後の部品体積 V = (l+∆l)(d-∆d)(b-∆b)
【変形後の部品体積を展開】
V = (l+∆l)(d-∆d)(b-∆b)
= (l×d×b) + (∆l×d∙b) - (∆d×l∙b) - (∆b×l∙d) - (∆l∙∆d×b) + (∆d∙∆b×l) - (∆b∙∆l×d) + (∆l∙∆d∙∆b)
斜字太文字は非常に小さな計算値になり有効数字の範囲に入らないため省略するします。
(変形前) = (変形後)から
V = l×d×b = (l+∆l)(d-∆d)(b-∆b) = (l×d×b) + (∆l×d∙b) - (∆d×l∙b) - (∆b×l∙d)
上記の式を計算すると斜線太文字の部分が残ります。
したがって以下の関係式が得られ、(縦ひずみによる体積増加分) = (横ひずみによる体積減少分)が式の展開から示されることになります。
∆l×d∙b = (∆d×l∙b) + (∆b×l∙d)
左辺の意味は、(縦ひずみによる体積増加分) = ∆l×d∙b
右辺の意味は、(横ひずみによる体積減少分) = ∆d×l∙b+∆b×l∙d
ポアソン比は縦ひずみと横ひずみを使って以下のように計算されます。
ポアソン比の値は金属の場合、0.27~0.33。
樹脂の場合、0.33~0.37 の範囲に入ります。
機械設計の実務では鉄鋼材料は0.30、樹脂は0.35を使います。
ポアソン比が取りうる範囲は理論的に -1 < ν < 0.5 となります。
経験が浅い状況で強度シミュレーション(FEM)に取組むと、試験結果とシミュレーションの結果が一致しないことが多くあります。その時に触ってしまう数字の一つにポアソン比があります。
しかし、大きくシミュレーション結果が変わることはありません。
ポアソン比は体積一定という仮定の下で縦ひずみと横ひずみの関係から得られる値です。
注目する引張・圧縮応力より影響を与えることはなく、せん断応力やせん断変形に影響します。
経験的な数値をお使いいただくことをお勧めします。
ポアソン比と縦弾性係数および横弾性係数の間には、理論的に以下のような関係があります。
しかし、現実の材質の特性値は理論通りにはならず、多少のバラツキが存在します。
強度シミュレーションのソフトウエアでは、縦弾性係数とポアソン比を使い、以下の関係式から横弾性係数を求めまする
そして計算された横弾性係数を解析モデルに当てはめてシミュレーション結果を算出します。
そのため曲げやねじりのような横弾性係数の影響が大きいシミュレーションを行うと、大きな誤差を含んだ結果が得られます。
そのような場合、実験的に得られた横弾性係数と慣例的に使用されているポアソン比を使い、縦弾性係数を計算で求めます。
このようなシミュレーションを行うと曲げやねじりの計算精度は高くなります。
しかし引張や圧縮変形・応力は大きな誤差を含むことになります。
正直なところ、材料力学の知識が乏しく経験も少ないと、引張・圧縮とせん断のトレード・オフに悩んでしまいます。
以下は経験的な話になりますが、強度計算を行う多くの場合、引張や圧縮荷重が支配的になります。
ねじられる部品を除き、強度計算でせん断力を評価したことは溶接締結部と樹脂部品だけでした。
せん断力で評価する機会は少ないので、多くの場合、せん断方向の誤差が含まれることを承知のうえで縦弾性係数とポアソン比を使います。
ここまでに説明してきた記号はギリシア文字で、習慣的に使われているものです。
独自の記号を使うことは構わないですか、同業者と打合せをするときに記号と割り当てられている意味が異なると話が噛み合いません。
この分野の共通語だと考えて、独自の記号を使わずに覚えてください。
以下に記号と読み方、割り当てられている意味(用語)をまとめました。参考にしてください。
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